カエデ科 カエデ属 落葉高木
「カエデ」といえば、この木を指すほど代名詞的な存在であるイロハモミジ。秋、寒さに当たって黄色からオレンジ、深紅に移り変わっていく様子には思わず目を奪われます!
まるで赤ちゃんの手のように小さく繊細な葉には深い切れ込みがあります。これを裂片(れっぺん)と呼びますが、この裂片を数える時、「いろはにほへと…」と数えたことから、イロハモミジという名前が付いたとも。どこか詩的なネーミングですね。
左)子供の小さな手を広げたようなイロハモミジの葉
右)色鮮やかな秋の紅葉のグラデーションは息をのむほどの美しさ!
その自生地は本州では関東以南から四国、九州等の太平洋側。落葉高木ではありますが、横へ横へと流れるように生長します。
ヤマモミジともよく似ていますが、イロハモミジの葉の方は平均で4㎝前後なのに対し、ヤマモミジは5~10㎝と少し大きく、切れ込みもイロハモミジの方がより深く入っています。またヤマモミジの方は北海道、東北地方から島根の日本海側に分布しており、自生地にも大きな違いがあります。
その小さく繊細な枝葉の印象から「純和風」のイメージを持つ人も多いのですが、近年では新素材と木材などを組み合わせたシンプルでモダンなテイストの住宅も増えており、こうした雰囲気にもしっくり馴染みます。「秋は紅葉する木が欲しい」と思うのであれば、迷わずおすすめしたい木です。
紅葉が美しいことはわかっているけど、シンボルツリーにするなら花や実も欲しいから…とモミジを諦める方も多いのですが、実はイロハモミジには小さいながらも、きちんと可愛い花も実も付きます。
花は4~5月頃。サクラやハナミズキのような華やかさはありませんが、赤くポツポツとした蕾に付く小さな花が若葉と一緒に枝先に揺れる様子は何ともいえず初々しい雰囲気です!
左)赤い小さな花が可愛いイロハモミジの花
右)花後に付ける淡いピンクの翼下(よくか)
花の後には、淡いピンクの実を付けます。よく見ると、2枚のプロペラのようなものが付いているのですが、これは翼果(よくか)と呼ばれ、種を遠くまで飛ばすため、風でくるくると飛んでいきます。まるで花のようにも見えるので、5~6月頃には枝葉の様子をよく目を凝らして見ておきましょう。かわいいその姿を見つけることができると、いよいよ夏の訪れです。
もちろん、初夏の新緑は何より爽やか!夏には深い緑が涼しい日陰を作ってくれるだけでなく、美しい陰影が楽しめるはずです。
落葉樹というと落ち葉を心配される方も多いのですが、考え方を変えれば、秋から冬の時期に葉が落ちる時期はまとまっているので、お掃除はその時期のみに集中します。常緑樹は葉の生え替わりに合わせて一年中パラパラと葉を落とすものもあるので、かえって大変!という声も。
また季節の移り変わりを実感できるのは落葉樹ならでは。色鮮やかな落ち葉が庭一面、モミジの絨毯のように埋め尽くした光景には、きっとうっとりしますよ。
モミジの鮮やかな紅葉を楽しむのであれば、日照がきちんと得られる場所が理想です。例えば、一日中薄暗い場所では、ハッとするような鮮明な紅葉にならない場合が多く、逆に夏の日差しが強すぎる場所に植えると、葉先が白っぽくなったり、葉全体が黒ずんでしまう「葉焼け」状態を招いてしまいます。
葉焼けすると、残念ながら紅葉になる前に茶色く枯れて落葉してしまいますので、せっかく紅葉を楽しみに植えている方にとっては本末転倒です。
特に、西日の当たり方には気を付けたいもの。イロハモミジは他の雑木と呼ばれる樹種の中では西日に強い方ではありますが、あまりに幼木の内に過酷な状況に置かれると、枝枯れ、本枯れに繋がってしまうことも。
特に夏場の西日の射し込む時間が長い場所は避けた方が良いでしょう。
日当たりが良くて西日に当たり過ぎず…??なかなか難しい条件のように思えますが、イロハモミジはもともと山の木なので、山に自生するモミジをイメージして頂ければ何となく想像が付きますね。
山には一日中ガンガンと日が当たり続けるような場所は少なく、周囲の木々の陰になっていたりします。大半の木は上へ上へと光を求める一方で、イロハモミジは横に広がって日照を確保しますが、いずれは山の陰になって直射日光は入らなくなります。
イロハモミジが自生するのは一定時間は光のしっかり射し込む場所
そのため、一般住宅でも多少近隣の建物で陰になってしまう時間はあっても問題ありません。むしろ猛暑の夏に西日が当たり続けるぐらいであれば、陰になる方が自生地に近い条件に近づきます。
少なくとも一定時間、東や南から日差しがきちんと入る場所であれば、きちんと紅葉を楽しめるはずです。
新築の家に引っ越して間もない内の場合、どこの場所に長く日が当たるのか、夏場の西日が差す場所などもわかりにくいもの。植栽地はプロにさまざまな条件を伝えて選んでもらうのも良いでしょう。
自分たちで植える場合は、1年ほど四季を通じて西日や東、南などの日の当たり具合を見てからでも遅くありません。
紅葉する条件として、もう一点頭に置いておきたいのが、気温です。こればかりは日照条件が理想的でも、人間には操作できない部分です。夏はしっかり暑く、秋、急激に朝晩の気温が下がった年などは驚くほど美しく紅葉します。残念ながら、年によっては冷夏や暖冬など気温差がハッキリしない時もありますので、一気に色づいて来た年は、チャンスを逃さず写真をたくさん撮ったりして、紅葉を存分に楽しんでおきましょう。
イロハモミジというと、主幹が1本だけの単幹の樹形を思い浮かべる方も多いかと思いますが、これだとどうしても純和風にテイストが傾きがちですね。
モミジは入れたいけど、和風になるのは抵抗がある、家に合わない…という場合は株が何本か根元から出ている株立ちの樹形を選ぶこともできます。
この樹形の良さは、何よりよりナチュラルな雰囲気を演出できるところ。シンボルツリーとしても、テラスやウッドデッキなどの緑陰樹としても、現代的なデザインの家にも馴染みやすくお勧めです。
また株が何本かに渡って栄養が分散されることで、生長が早くなり過ぎず、横に広がり過ぎないのも魅力です。あまり広く場所が取れない、隣接する家への影響などが気になる、和洋どちらにも馴染む雰囲気が好み、という方はぜひ、株立ちの樹形をプランナーにリクエストしてみて下さいね。
横に枝を伸ばす性質のあるイロハモミジですが生長は早く、放置すると枝でも大人の男性の腕を超えるような太さになってしまいます。
枝葉も旺盛に茂るので、木陰は涼しく気持ち良いのですが、あまりの茂り過ぎてお庭が暗くなってしまうことも。また風通しが悪いと病害虫にも侵されやすくなります。幼木の早い内から、将来の理想の樹形をイメージして不要となる枝を選んで剪定を入れて行きましょう。
イロハモミジの剪定は11月以降の落葉期が本格的なシーズン。やはり自然樹形を保って情緒のある雰囲気を演出したいので、剪定は小枝が出ている元の部分まで切り戻す「切り戻し剪定」を行います。梅のように半端な位置でちょこちょこと剪定を行うとそこから枝が細かく吹いてしまい、次第に自然樹形が崩れ、アンバランスな樹形になってしまいます。
主には葉幹の内側に向かって行くような枝を不要枝とし、切り戻します。また、重なり合って通風を妨げる細かい枝などは病害虫予防のためにも頻繁に透いてあげたいところです。枝同士が透けて見えるぐらいにすれば、爽やかな印象に仕上がります。
翌春以降、バランスを見ながら、内部が混み合っているようであれば、また透かし剪定を行います。
いずれも、大きくなってからではハサミを入れるにもノコギリを入れるにも、骨の折れる作業になってきますので、なるべく手を入れやすい内から定期的に行うのがポイントです。
横に流れるような自然な樹形を目指して、自分たちで手入れしやすいスタイルに育てて行きましょう!
薄い葉が繊細に重なり合うイロハモミジの良さを生かすためにも、透かし剪定は定期的に!
せっかくカエデの代名詞ともいえるイロハモミジを植えるのであれば、その魅力を最大限活かせる庭をつくりたいものですね。例えば、モミジの葉が映えるといえば、水景。水面に落ちたモミジの葉はとても情緒が感じられます。こんこんと湧く水の動きが美しい水盤などがあると尚、素敵ですが、あまり大がかりなものが難しい場合はメダカなどを泳がせる睡蓮鉢だけでも素敵です。
また、和室の前等に植えるのであれば、室内からの眺めを重視したいところ。座ってみた時どう見えるのか、角度など考えながら植えてもらいましょう。フレーミング効果などをイメージして、モミジを中心にその他の木々や植物などを配置していくのもよく行われる造園技法です。
さらにおすすめしたいのが、照明とそれを映し出すための背景です。
照明は派手なライトアップでなくても、やわらかな光の庭園灯があれば、淡い光が繊細な薄い葉の陰影を映し出してくれます。ただ、照らすだけでは勿体ないので、できればモミジのシルエットを投影するための背景があるとさらに効果的です。素材は木塀でもモルタルでも、RCなどの無機質な素材でも、シンプルであればあるほど、モミジの存在感が際立ちます!
先にご紹介したモミジの花の後にできた実、プロペラ状の翼下(よくか)は11月頃に熟して風に乗って遠くへ飛び立つのですが、意外と近くに落ちたりもします。
春、ふと株元を見ると可愛い小さなモミジの実生苗が顔を出しているのを見つけると、嬉しくなりますが、放っておくと親よりも大きくなってしまうことも!
親株とあまりに近い場所に芽を出した場合は、早い内に別の場所に移したり、この際、コンパクトに盆栽にチャレンジしてみたりするのもいいかもしれません。手の平サイズの盆栽を作ってみるのもかわいい!
発芽から7~8年あれば、お互い譲り合う事もなく2本で競い合って近隣に枝を伸ばしてしまうので、剪定も大変になります。それほどイロハモミジは発芽率が高く、生長するスピードも早いという事をお忘れなく!
いかがでしたか?旅館や料亭などの中庭などで見かけて憧れはあるものの、自宅にはちょっと敷居が高いイメージを持つ人も多いイロハモミジも、今では育てやすさもあって庭木としてもすっかりポピュラーな存在になっています。お値段的にもこなれているのも魅力的ですし、樹形も良いものがたくさん出回っています!
ぜひご自宅のお庭に植えて、四季折々の風光明媚な姿をご自宅で味わってみて下さいね。